
概要
背景
ソニー・ホンダモビリティ(SHM)は、車両に搭載された数多くのセンシングデバイスと先端のAI技術を活用した自動運転(Automated Driving: AD)や先進運転支援システム(Advanced Driver-Assistance System: ADAS) の開発に取り組んでいます。
未来のモビリティブランド「AFEELA(アフィーラ)」のAD/ADAS開発では、開発のスピードアップと品質向上のために計算リソースを最大限に有効活用していくことが重要でした。
フィックスターズは以前からソニー・ホンダモビリティのAD/ADAS開発のプロジェクトでソフトウェア高速化やAIモデル開発の技術支援を行ってきました。そこで、さらなるAI学習の効率化に向けて「Fixstars AIBooster」の導入を提案しました。
ソリューション
パフォーマンスエンジニアリングプラットフォーム「Fixstars AIBooster(以下、AIBooster)」をGPUクラウド上の自動運転AI開発環境に導入しました。
AI学習中のGPU稼働状況をリアルタイムモニタリングできるようになったことで、現在では、何らかの高速化施策を打つ際には、まずAIBoosterでGPUやストレージの稼働状況を多角的に分析し、ボトルネックを特定するプロセスが定着しています。また、必要な情報が整理された直感的なダッシュボードも、効率改善のサイクルを速める一因となっています。
インタビュー
ソニー・ホンダモビリティ株式会社
オートノマスシステム開発部 データ・AI開発環境課
シニアマネジャー 田森 正紘 様
同 オートノマスシステム開発部 AIモデル開発課
シニアマネジャー 周藤 泰広 様
同 ネットワークサービス開発部 バックエンド課
ソフトウェアエンジニア 片岡 基 様
SM Activityのリアルタイムモニタリングが導入の決め手

(ソニー・ホンダモビリティ株式会社
オートノマスシステム開発部
データ・AI開発環境課
シニアマネジャー)
田森様元々フィックスターズ社とは、さまざまな業務で連携がありましたが、直接のきっかけは弊社の社長である川西と御社の三木社長との会話でした。「計算リソースの実行効率を2倍にするツールがある」と聞き、すぐに「使ってみよう」という話になりました。
背景として、我々はAI、特に認識モデルの開発でクラウド上のGPUを大量に利用しています。しかし、このハードウェアコストは非常に高額なため、投資対効果が良いのか、GPUリソースを本当に効率的に使えているのか、正確に把握したいというニーズがありました。また、その利用効率を可視化し、最大化したいという思いがありました。
周藤様 技術的な観点から導入の決め手となったのは、GPUの「SM Activity(Streaming Multiprocessor Activity: GPUの基本的な計算ユニットレベルでの計算効率)」をリアルタイムで詳細にモニタリングできる点です。GPUごとや単位時間あたりの実行効率は、我々も測定はしていましたが、AIBoosterほど詳細には把握できていませんでした。この機能が我々のニーズに最も刺さったポイントです。
導入から約1年が経過し、GPU利用効率に対する意識が変化
田森様クラウド環境におけるGPUの使用率を、自分たちでリアルタイムに確認できるようになったことは、非常に大きなメリットだと感じています。
片岡様 最も大きな効果は、コスト意識が高まったことです。社長の川西が自らダッシュボードを確認するほど、GPUの利用効率に強い関心を持っています。このトップの関心を起点として、AIエンジニアや高速化チームメンバーの一人ひとりが、自分の担当する学習がGPUをいかに効率的に使えているか意識するようになりました。
他のモニタリングツールと比べて、必要な情報が整理されていてダッシュボードが見やすいのも良いところです。
周藤様
機能面では、最近のバージョンアップで、ジョブの実行中でも状況を確認できるようになった点が素晴らしいですね。以前はジョブ完了後の確認でしたが、よりリアルタイム性が高まり、改善のサイクルが格段に速まりました。
今では、何らかの高速化施策を打つ際には、まずAIBoosterで現状を分析することが最初のステップとして定着しています。GPUだけでなくストレージの使用状況もジョブ単位で分析できる機能もユニークで、多角的な分析の入り口として非常に効果的だと感じています。

(ソニー・ホンダモビリティ株式会社
ネットワークサービス開発部
バックエンド課 ソフトウェアエンジニア)
AIBoosterによるAI処理実行の自動最適化への期待

(ソニー・ホンダモビリティ株式会社
オートノマスシステム開発部
AIモデル開発課
シニアマネジャー)
田森様ツールとしては、リアルタイムでの結果確認や実行中のジョブへのアプローチなど、継続的な使い勝手の向上を期待しています。
また、単なる数値データだけでなく、なぜその結果になったのかという、背景にある考え方や、改善推移についてもレポートに盛り込んでいただいて、より深く分析したいとも思うようになりました。
支援の面では、現在の高速化やモニタリングに留まらず、今後は「AI学習プロセスの安定化」や「スケジューラーの最適化」といった、より上流の課題についてもご協力いただけると心強いです。
周藤様 AI処理実行の最適化について、AIBoosterによるさらなる自動化*を進めてもらいたいです。約8割はAIBoosterで自動的に実行してもらって、エンジニアは残り2割のコアな部分に集中する、という役割分担ができると理想だと思っています。
また、学習データ量が増大する中で、まれに発生する学習ジョブの失敗による損失は無視できません。原因となる学習中の異常なスパイクを、AIBoosterによる検出を元に対策できるようになると学習の安定性が増すと思います。
田森様昨今のGPU不足という状況を踏まえ、種類の異なるGPUを複数組み合わせても単一GPUと同等の性能を発揮できるような、高度な技術支援もお願いできればと期待しています。
*本記事の内容は取材時(2025年9月)の情報に基づいています。
また、所属・肩書は記事公開時のものです。
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