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量子アニーリングクラウドの実用的なアプリがズラリ
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量子アニーリングクラウドの実用的なアプリがズラリ

2021-04-30
プレスリリース

Fixstars Amplifyハッカソンの受賞作品を公開

マルチコアCPU/GPU/FPGAを用いた高速化技術のグローバルリーダーである株式会社フィックスターズ(東証1部:3687、代表取締役社長 CEO:三木 聡)は、量子アニーリング等イジングマシン*1を実行するためのクラウド基盤「Fixstars Amplify」を使ったアプリケーション開発を競うハッカソンの結果を公表しました。最優秀賞は、ハッカソンの開発期間当時中学生だった木更津高専1年生の越智優真さんが選ばれました。

量子アニーリングマシンなど、イジング模型と呼ばれる数理モデルを使って組合せ最適化問題*2を解くイジングマシンが各社で開発されています。当初は、扱える組合せ最適化問題の規模を表すビット数が少なく、実際の社会課題に適用するのが難しいのが実態でしたが、性能の向上によって既に実問題が解ける基盤が整いつつあります。例えば、GPUを使ったアニーリングマシン「Fixstars Amplify Annealing Engine(AE)」では、10万ビット超の問題が扱えます。

フィックスターズでは、イジングマシンの本格的な社会普及に向けて「技術的ハードルの緩和」と「組合せ最適化問題の応用アイデア」が欠かせないと考え、ハッカソンを企画しました。2021年2月にリリースしたばかりのサービスを使うアプリ開発イベントでありながら、71ものチームが参加登録してアイデアや実装力などを競いました。

ハッカソンのアプリ開発期間は3月1日から1ヶ月間。4月1日までに提出されたアプリを元に1次審査が行われ、4月24日に最終プレゼンテーションが実施されました。審査の結果、最優秀賞(賞金40万円)1チーム、優秀賞(同15万円)3チーム、特別賞(同5万円)3チームが選ばれました。

オンライン開催されたFixstars Amplifyハッカソンの最終プレゼンテーション

Fixstars Amplifyのウェブサイトでは、受賞した7チームを含めてハッカソンに提出されたアプリを紹介しています。サイトに掲載しているアプリはいずれもMITライセンスで公開されています。

Fixstars Amplifyハッカソンのウェブサイト:https://amplify.fixstars.com/hackathon00

受賞作品

最優秀賞

『浅(くて広い)層学習 少データでお手軽機械学習』
越智優真さん(木更津高専)
https://github.com/Chizuchizu/amplify-hackathon

米Googleとパデュー大学、カナダのD-Wave Systemsが報告した量子アニーリングによる機械学習モデルである「QBoost」を発展させ、新しい機械学習の手法を提案しました。深層学習で言うところの学習に相当する計算を組合せ最適化問題に置き換え、多数の最適化結果を組み合わせることで、QBoostより表現力が高く、高精度でありながら推論の計算処理が軽いAI(人工知能)モデルが開発できる可能性を見出しました。

テーマの斬新さやアプリの内容だけでなく、提案した手法の検証やメリット・デメリットの考察などを含めた全体的な完成度が高く評価されました。

受賞者コメント:
「名誉な賞を頂けてとても嬉しいです。数独が一瞬で解ける事に感動してから、自分が興味を持っている機械学習の領域と組み合わせたいと思ったのが私のハッカソンのテーマのはじまりです。量子コンピュータも最適化もわからない私でしたが、よく整備されたFixstars Amplifyのおかげでスラスラと手を動かすことができました。他の参加者のクオリティも高くて勉強になりました。これからも分野にとらわれずに色々な事に挑戦していきたいです!」

優秀賞

『Champlify(Character pattern formation generator powered by Amplify)』
奥村 圭佑さん(東京工業大学)
https://github.com/Kei18/champlify

ドット文字が別の文字へと遷移するアプリで、ドットが移動する経路をリアルタイムに計算します。自動搬送ロボットの経路計画などで応用が期待できる技術で、最終プレゼンテーションでは複数台のロボットが並んで文字を形作り、自走して遷移するデモンストレーションも披露しました。

受賞者コメント:
「Twitterでたまたま見かけて参加してみました。それまでFixstars Amplifyの存在は知らなかったのですが、チュートリアルに目を通してみて使ってみたいなと思い、今回の作品を作りました。とてもマニアックなハッカソンで、最終発表では面白い作品が多く、刺激になりました!」

優秀賞

『グループ全体の好みを考慮した楽曲リスト自動生成ツール』
武笠 陽介さん(早稲田大学)
https://github.com/mks1412/omakasetli

メンバーが登録した楽曲の評価情報を元に、グループ内で共通して評価が高い楽曲リストを生成するアプリです。既存の音楽配信サービスと連携したウェブサービスとして実際に使える形で公開されており、アプリとしての完成度の高さが際立ちました。

受賞者コメント:
「このたびは優秀賞を頂けたことを大変光栄に思います。私は『グループ全体の好みを考慮した楽曲リスト自動生成ツール』というエンタメ系のジョークアプリを開発しましたが、他の作品には学術的な価値があるものが多く、非常に勉強になりました。このような貴重な機会を提供していただきありがとうございます。今後もFixstars Amplifyをはじめとするイジングマシン分野の発展に貢献できるように果敢に挑戦していきたいと思います」

優秀賞

『一次元アーキテクチャにおける量子ビット割り当て問題』
内藤 壮俊さん(東京大学)
https://github.com/SoshunNaito/amplify_hackathon_sample

設計したゲート型量子コンピュータの回路を、実機に搭載しやすいように組み替えるアプリです。古典コンピュータ(量子回路設計)、量子アニーリング、ゲート型量子コンピュータを、それぞれの得意分野に合わせて使うアプローチだと評価を得ました。

受賞者コメント:
「私は今回、ゲート型量子コンピュータをテーマとして、量子回路の実機搭載を支援するアプリケーションを開発しました。結果として、研究としても非常に意義のある面白い作品が作れたように思います。Fixstars Amplifyを触ってみて特に驚いたのがその使いやすさで、モデルの構成や実行がスムーズに行えたのが印象的でした。そのため、本質的な実装に集中できたと思います。非常に有意義な1ヶ月でした。同じような機会があればまた参加したいです」

特別賞

『SSSS.(SSSS. is Super Shift Scheduler) -誰でも簡単シフトスケジューリングサービス-』
福間 遼太郎さん(慶應義塾大学)、大野公平さん(東京高専)、児島大和さん(会津大学)、若山裕輝さん(都立産技高専)
https://github.com/tlapesium/SSSS

勤務シフト作成アプリです。既存サービスと比べて手軽に使える点を差異化ポイントとして明確にし、使い勝手を考えた設計が評価されました。

受賞者コメント:
「このような素晴らしいコンテストで賞を得られたことは大変光栄に思います。開催していただいたフィックスターズの方々、ありがとうございました」

特別賞

『Polyomino Solver』
會澤 一輝さん(長岡技術科学大学)
https://github.com/kaz130/polyomino-solver

ポリオミノと呼ばれる多角形の箱詰めパズルを解くアプリです。実装技術の高さと産業応用への期待から受賞に至りました。

受賞者コメント:
「この度は、特別賞をいただくことができ大変嬉しく思います。ちょっとした思いつきで始めたアプリケーション開発でしたが、組合せ最適化について学びながら楽しんで取り組むことができました。また、他の参加者の作品を知ることで、様々な社会的課題の解決へ向けて、ソフトウェア技術の発展が大いに役立つと感じることができました。今回は、このようなハッカソンを開催していただき、ありがとうございました」

特別賞

『Ising Register Allocation~アニーラによるレジスタアロケーション~』
熊谷 政仁さん(東北大学)、高屋敷 光さん(東北大学)
https://github.com/kumagaimasahito/IsingRegisterAllocator

コンパイル時にソースコード内の変数をCPUレジスタに割り当てる処理を効率化するアプリです。実用化できた時の効用が高いと評価されました。

受賞者コメント:
「この度は、Fixstars Amplifyハッカソン特別賞をいただき、誠にありがとうございます。非常に技術力の高い作品が多い中で、受賞できたことを大変嬉しく思います。Fixstars Amplifyは量子アニーリング・イジングマシンを使いやすくし、アプリケーションの開発スピードを上げるものだと感じました。今後もAmplifyを用いてレジスタアロケーションの研究開発を続け、課題の解決に取り組みたいと思います」

ゲスト審査員のコメント

ハッカソンの審査員は以下の4人が務めました。

  • 慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 田中 宗 准教授
  • 九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 藤澤 克樹 教授
  • 株式会社フィックスターズ 三木 聡 代表取締役社長 CEO
  • 株式会社フィックスターズ 松田 佳希 エグゼクティブエンジニア

ゲスト審査員として協力いただいた、慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科の田中 宗准教授と九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所の藤澤 克樹教授から、コメントを頂戴しております。

慶應義塾大学 理工学部 物理情報工学科 田中 宗 准教授のコメント:
「量子アニーリング等イジングマシンの研究者として、大変楽しく発表を聞かせていただきました。自分の研究にとっても得るものが大きいハッカソンだったと感じています。審査のために線引きをしなければなりませんでしたが、賞に選ばれなかった中にも興味深いテーマが多くありました。ぜひ、ハッカソンで終わらせずに、サービスとして公開したり論文にして発表したりと、世界へ発信してほしいと思います」

九州大学 マス・フォア・インダストリ研究所 藤澤 克樹 教授のコメント:
「独創性、実用性、実装の技術レベルなどの観点から審査させていただきましたが、想定外の新しい分野への挑戦が複数提案されており、またFixstars Amplifyの性能を引き出す高度な実装が多く見られました。
最終的に7チームを表彰致しましが、全体的にレベルが高く、大きなレベルの差は感じませんでした。ビジネスに繋がる可能性を感じる提案や学術的な研究への発展が期待できる題材も多く、今後も取り組みを継続していただけると幸いです」

フィックスターズは今後もFixstars Amplifyのサービス開発と情報発信、サンプルアプリの公開を進め、量子アニーリング等イジングマシンの社会応用を加速していきます。

Fixstars Amplifyとは

イジングマシンを使ったアプリケーション開発及びシステム運用を実現するためのクラウドサービスです。研究や開発には無償で使えます。イジングマシンの利用に必要な前処理や後処理といった専門性の高い工程を自動化し、同じプログラムコードを使いながらどのイジングマシンを使うか選べるようにします。ハードウェアの性能を引き出すソフトウェア高速化を得意とするフィックスターズの知見を数多く組み込んでおり、簡単でありながら効率的にマシンを扱えます。新しいイジングマシンの登場や進化にもクラウドが機能を拡張して補い、Amplifyのユーザーが開発したプログラムコードや知見を有効活用しつづけられるサービスとして運営します。
https://amplify.fixstars.com/

*1 量子アニーリング等イジングマシン

イジング模型と呼ばれる数理モデルを使って組合せ最適化問題を解く専用マシンをイジングマシンと呼びます。量子アニーリングもイジング模型を使うため、米D-Wave Systemsによって商用提供されている量子アニーリングマシンもイジングマシンに分類されます。

*2 組合せ最適化問題

組合せ最適化問題は、制約条件を満たした変数のうち、評価指標が最も高くなる値の組み合わせを求める問題です。考慮すべき条件や変数が増えるほど組み合わせパターンが急増し、計算が難しくなる特徴があります。実社会で計算ニーズが高く、あらゆるモノ・コトがつながるスマートシティでも、分散型エネルギー源や物流の輸送計画などで活用が期待されています。

フィックスターズについて

フィックスターズは、”Speed up your Business” をコーポレートメッセージとして掲げるソフトウェアカンパニーです。マルチコアプロセッサを効率的に利用するためのソフトウェアの並列化および最適化と、省電力かつ高速IOを実現する新メモリ技術を活用したアプリケーションの高速化を通じて、医療、製造、金融、エンターテインメントなど、様々な分野のお客様のビジネスを加速し、グリーンITを実現しています。
https://www.fixstars.com/ja/


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本件に関するお問い合わせ

株式会社フィックスターズ 広報担当